ファシリテーターのしごとは、「よい質問をすること」である。
よい質問や適切な問いかけは、人を気づかせ、考えさせ、成長させる力を持っている。その問いかけがチームワークを強くしたり、組織改革の一助になったりもする。こういうのを「相手に貢献する質問」と言ったり「成長を促す質問」と言ったりする。
最近、僕は質問をされ、そのことにより成長させられたことがあった。
いずれもシンプルなものだったが、とても貴重な経験だったので、書き残しておこうと思う。
会議に関するファシリテーター講座をしているとき、ある参加者がこういう質問をしてくれた。
「青木さんは、会議のファシリテーターをするときに、どういう柱をもっていますか? 何本かの柱をもって会議のファシリテーションをしているのではないですか?」
そう聞かれ、僕は数秒間考えたうえで、「はい、大事にしている柱は3本あります」と答えた。
会議のファシリテーターとして大事にしている柱は「時間」と「議題のすすみ具合」と「参加者」の3本だ。
会議の場合、ファシリテーターの役割は「与えられた時間のなかで参加型の会議進行をし、会議の到達目標を達成すること」。なので、常に時間のことを気にしている。この議題にあと何分かけられるのか? 一人あたりの発言時間を制限すべきか?などの時間感覚がないと、いつも時間オーバーの会議になってしまう。
その次に大切にしているのが「議題のすすみ具合」。想定していたところまで踏み込んで話し合いができているか、本日中に決めなければいけないこと(到達目標)は決められそうかなどを気にする。
従来の「議長」や「司会」などの会議進行役と最も違うのが「参加者」のことを尊重し、丁寧に接している点だ。会議の参加者ひとりひとりが議題を理解しているか、生き生きと参加しているか、納得して意思決定できているか、などについて配慮しながら進行をしている。
こうやって書いてみると、あらかじめ質問の答えを想定していたように見えるが、そんなことはない。上記のことは、質問されたその場で、即時に、自分のなかで整理できたものだ。とてもよくまとまっているので、その後の研修では、この3本の柱の話しをして、ファシリテーターとして大切なことを伝えている。
僕自身が身体化し、気づかないうちにやっていた大事なことが、質問されることでわかりやすく整理することができた。とてもありがたい質問だった。質問をされた瞬間はびくっとして、「えらい難しいこと聞くなぁ」と思っていたけれど、今はその質問をしてくれた参加者に深く感謝をしている。
もうひとつ、最近された質問は、ある団体のためにオーダーメイドで連続理事研修をつくっているときに出たものだ。
「ここの第●回の研修の内容には、ナレッジマネジメントのような側面は含まれていますか?」という質問だった。
恥ずかしながら、僕はナレッジマネジメントという言葉を聞いたことはあったけど、正確には理解していなかった。いったい何のことなんだろう?と想像している間に、いっしょに研修をつくっている仲間が「えぇ、まさにその内容を含んで構成しています」とかいって答えてくれた。「いやぁ、最近はナレッジマネジメントが大切だと言われてますからねぇ」などと会話がはずんでいるのを横目にみながら、内心はそのことを知らないのは自分だけじゃないかと思い、冷や冷やとしていた。
休日に図書館にでかけて、ふらふらと本棚をさまよっていると、「ナレッジマネジメント入門」という本が目に入ってきた。不思議なモノで、ああやって質問された言葉は強く自分の意識に残っていて、ついついそういうタイトルの本が目の前に現れてしまうものだ。
さっそく、手にして読み始めた。ちょっと新聞でも読んでかえるつもりで図書館によったはずだったが、しっかりと90分かけて、その本を読み込んでしまった。とても集中した読書になり、充実感のある時間だった。おかげで昼食を食べる時間が遅れはしたが、ナレッジマネジメントというもの何なのかが理解できた。ありがたい限りだ。
あとになって振り返ってみれば、あの打ち合わせで、そういう質問をされたからこそ、じっくりと学ぼうと思ったのだ。僕を成長させてくれたすばらしい質問だと思う。
そうかんがえると、ファシリテーターは僕たちのまわりにたくさんいる。
特別に意識しなくても、人は人に刺激を与え、成長を促しているのだ。
願わくは、これから僕がだれかに投げかける質問や言葉が、その人の人生を豊かにしたり、その人の成長に役立てるものであったらなぁ、と思う休日でした。
また明日からがんばるぞー!
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