――― Marky on the WEB 2009/09/13 大学で授業を受け持つようになって2年目になります。 先日、北九州大学で「政策実践におけるファシリテーション」をテーマにした3日間の集中講義を担当しました。参加者数が3倍以上に増えていてびっくり。前回は10人ちょっとだったのに、今回は履修段階で49名。もし全員が参加したら、自分には扱いきれないグループサイズかなぁと感じていたのですが、実際に来たのは36名ほど。 大学の教室は固定イスが多く、この人数が入って、かつ自由に机・イスが動かせる部屋は限られてます。お世話をしていただいた三宅教授は「そんな部屋ないんとちゃうかなぁー」と関西弁であきらめ気味のコメントでしたが、事務方がきちんと調べてくれて、眺めのよい、自由に使える広い部屋をあててくれました。どこにいってもそうですが、事務方がしっかり動いてくれると、こちらも安心して仕事ができるものです。 1年前の日記にもあるように「よい授業とダメな授業」を生徒から聞くところからスタートするこの授業。よき学びの場の条件は学習者自身がよく分かっています。 今回、学生たちから教わったことは「教える側が、何を重要だと考えているのかを明示しない授業はダメ」ということ。なるほど、僕のパターンとして「学びは人それぞれ」というスタンスをとることが多いのですが、今回は1日ごとに「本日のポイント」を自分なりに整理し、明確に伝えて終えるようにしました。 前半の1.5日は主に僕がファシリテーションをする時間で、後半の1.5日は学生達がファシリテーションをする時間。なんといっても面白いのは後半です。 「どんなテーマでもいいから、このメンバーで話し合いたいこと、意見や感情を交わし合いたいことを掲げて、30分間のミニ・ワークを考案しよう」という実習。合計で20個ものミニ・ワークが考案されました。 学生たちが考えたミニ・ワーク。そのテーマがけっこう面白いので、いくつかご紹介したいと思います。今時の大学2―3年生(19才〜21才)はこんなテーマを出してきました。 【社会系】 ・東京でのオリンピック、必要と思うか? ・レジ袋は有料化すべきか、無料のままでよいのか? ・オーストラリアなどで批判されている「イルカ漁」。日本人として止めるべきか? ・就職活動の面接でクールビズで行ってもよいものかどうか? 企業の立場から考える ・24時間テレビは「あり」か「なし」か? 必要だとすれば、どんなカタチがよいか? さすが政策を学ぶ学生たち。社会的課題に向き合うテーマを出してきます。
【人生系】 ・あなたの人生にテレビは必要ですか? ・子育てするなら「田舎」か「都会」か? ・パートナーより「先に死にたい」か、「後に死にたい」か ・世の中「カネ」か? なるほど。けっこう人生の根本や先のことについても考えたい人もいるんだなぁと感心しました。
【男女系】 ・異性のどんなしぐさが「ぐっ」とくるか?(もしくはゲンナリするか) ・恋人って必要? いらない? ・パートナーを選ぶ基準は「顔」か「性格」か? ・どこからが浮気か? 〜浮気は「文化」か?〜 ・恋人間の「束縛」について したいか・されたいか・したくないか・されたくないか ・しばらくつき合った間柄の「無関心」と「広い心」との違いはどこ? ファシリテーションうんぬんをすっとばして、テーマ的に盛り上がりをみせたのは「男女系」。やはりこれらのテーマは彼ら・彼女らにとってはホットなトピックのようで、比較的多い人数が熱気を持って集まっていたように思います。
個人的には「束縛」のワークはツボにはまりました。 授業の前半でいくつか紹介したファシリテーションの手法のうち「意味的マッピング」や「田の字法」※がとても印象に残ったようで、多くの学生たちが「軸」をつかったファシリテーションを試みてみました。 「束縛」については 自分のパートナーに/を という4象限で考えるようファシリテーターが提案しました。最近僕はDV(ドメスティックバイオレンス)のイシューなどにも関わっているし、ワカモノの間でのデートDV(結婚してない男女間での暴力・支配)も多く見られることから、実際のところどうなのかなぁ興味をもってきいていました。 ここで具体的にどうこうとは書けないのですが、30分間のディスカッションの前に、まず現状確認。各参加者が今の時点でどう思っているかの位置を、意味的マッピングを応用した紙面上で出し合うところからスタート。 それぞれに点が打たれます。その後の意見交換で「束縛こそ愛の証だというが本当か?」とか「どうして束縛されたくないの?」とかいった論点で盛り上がります。ときどきファシリテーターが全員に対して意見を聞いたり、まとめたりするなど場をホールドしているのが見てとれます。ワークを終えるに当たって、人の意見を聞いて、自分の意見や考えがどう変わったか(もしくは今、どう思っているか)を出し合いました。 たったの30分のワークでも、けっこう各自の意見が揺らいでいるのが見てとれました。自分が「当たり前」だと思いこんでいることを、違う意見の人と意見交換するなかで吟味しなおし、自分自身の人生に役立てていけそうな糧を得られたのであれば、すばらしいファシリテーションだったのではないかと思います。
3日間の集中講義を経て、学生たちにはいったい何が残ったのでしょうか? 毎日の終わりに「大福帳(http://homepage.mac.com/beulah/kokugo/daihukucho.html)」を活用して感想を聞いているのですが、これはなかなかよい仕組みです。毎日、授業後に学生たちの感想やコメント・質問などに赤字でお返事を書くのが日課でした。36人分はとても多くて大変なのだけど、ひとり一人を思いおこしながら丁寧に接することができる、やりがいのある作業です。 ある学生からはこんな感想をいただきました。 ●Aさん 「本当に、大学に入って一番充実した3日間を過ごせました。単位もらいに受講したんですが、それ以上のもの、いや「単位いらねーよ!」って思えるくらいです。それほど自分を含め、集団の変化がリアルに感じられる3日間を過ごせました。思ったのはファシリテーションって普段の生活に存在しているんだな、ということです。実習でファシリテーターをやって、私はいつものクセで紙にまとめていたが、先生が教えてくれて「見える書記」という一つの技術を知り、びっくりしました。せっかくほめて頂いたトコなので長所として伸ばしていけたらいいなと思います。 普段、アンケートに書かれているようなことは、あまり気にしないんですが、今回は、ちょっとうれしかったので、紹介させてもらいました。 大学での授業は、他の仕事に比べて謝金が高いわけでも、学習者の熱意が高いわけでもないけれど、それでもやったあとの充実感を大きく感じることができる、ありがたい仕事だと思っています。これからの社会を一緒に担ってゆく学生たちに、自分ができることを全力でやっておきたいと思います。 僕は「授業がつまらない、実践的じゃない、要点がわからない」なんて言わせたくないんだと思います。
※田の字法とは? SCプランニングの岩崎博さんが開発した手法で、現在×未来・好き×嫌いの4象限で意見を出し合う方法です。まちづくりや組織活性化の場面などで活用しやすい手法。 http://www.scplan.com/works.html
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