――― Marky on the WEB 2010/10/08
川嶋直さんは、清里にあるキープ協会を拠点に、自然体験型の環境教育を切り開いてきた方。日本における環境教育の分野の開拓者といってもよいのではないかと思います。とくに自然体験型の環境教育の分野は、若者を育てる仕組みや、分野を超えて学び合う仕掛けが豊かであると思います。そんな動きをリードしてきたとも言える川嶋さん。2009年に「ワークショップフォーラムg」の前段として一度インタビューをしていますが、人生の節目となるであろう2010年に、再び、お話しを伺いました。
■いい例をひとつでも掘り起こしたい ━━━━『就職先は森の中 インタープリターという仕事』のあとがきに、こんな文章があります。
でもぼくは、多くの若い人たちに、ひとりでも多く「インタープリターという仕事」に就いてもらいたいと願って、この本を書いたわけではない。ひとりでも多く「森の中」に就職してもらいたいと願って、この本を書いたわけでもない。どうぞ、自分自身の仕事をつくっていただきたい。どこかの組織に雇用されることだけを考えないで、自分の考える仕事を形にするようにしていただきたい。もうこれからは、組織に所属することだけが、仕事をすることとは限らないでしょう。ひとりひとりが実現したい仕事(夢)を持ち、その実現のために、あるいは個人事務所を開き、あるいは組織に属し、あるいは生活の糧を得る仕事とは別に、自分の本当の仕事を模索する。様々なスタイルがあって良いのだと思う。ぼくは、キープという組織に属しながら、組織のなかでの新しい仕事の実現に努めてきた。若い読者のみなさんは、どうするのでしょう。どうぞ、雇ってください、仕事を下さい、などという依存的なことは言わないで。自分自身の中に自分事務所をまず開設することから始めてみてはいかがでしょう。そしていつか一緒に仕事をしましょう。 この文章、僕、ものすごく影響を受けた文章なんです。これがあるから、僕は自分の事務所を設立し、ここまでやってこれました。同時に、僕の同世代の多くの若者がインパクトを受け、勇気づけられている。この文章に出会えただけでも、本当にありがたいなと思うんです。まず、感謝をお伝えしたい。 川嶋:はい。ありがとうございます。 ━━━━同時に、川嶋さんがこのタイミングで、キープ協会との関わりが変わり、常務理事から環境教育事業部のシニアアドバイザーという役回りになりました。常勤ではなく、非常勤で働くことになったとも伺っています。仕事のスタイルが変更する時期ですね。 川嶋:はい。 ━━━━川嶋さん、これから、どういうことをやっていきたいですか?
川嶋:今回の理事退任については、色々な要素がからまっているので、そんな単純な話ではないのです。なかなか微妙だな、と思っていて、ブログやメールでも「キープをやめてこうなりました」って出して言いません。ちょっと書き方が難しくて、いろんな思いの方もいらっしゃるでしょうから…。 ちょっと話が横にそれるんですけど、キープ協会の環境教育の事業って、「主催事業」と「受託事業」があるんですね。「主催事業」というのは、自分たちが主催して、一人ひとり参加者を募って開催します。キープの場合は、参加者に払っていただくお金で、基本的に成立しています。 ぼくたちのような仕事をしている同業者ならよくわかると思うんですけど、「主催事業」より「受託事業」のほうが儲かる。利益率のことだけ考えたら、「主催事業」なんてやらないで、「受託事業」だけやってたほうが、絶対にいいです。ただ、「主催事業」をやめないほうがいい、絶対やったほうがいいよと、いつも僕は思っています。「主催事業」をやることで、その組織が何をしようとしているのかが、明らかになる。何かしら社会的な影響を与える組織でありたいと思ってぼくらは仕事をしているわけだから、<どんな影響を与えたいの?>のメッセージ代わりが「主催事業」だと思うんです。もちろん、ホームページに文章を書くというメッセージの出し方もあるけど、それはちょっと頭がよかったり文章が上手だったらいくらでも書ける。キープだったら学びの場をつくるのが仕事。<どんな学びの場をつくろうとしているの?>という問いに答えるのが「主催事業」だと思うんです。 ━━━━はい。 川嶋:「主催事業」をやることで、ぼくらは成長していけるので、それははずせないんだけど、「受託事業」でぼくらが成長するって側面もあるんですね。ぼくらが思いもよらぬ無理難題を言われることもあるわけで、<え? そういうのやったことないけど、よし、いっちょやってみよう!>と頑張るなかで、新しい道が開けたり、世の中にどんなニーズがあって、こういうことならぼくらも少しは役に立てるかな、ってことに気がついたりするんです。 で、「これからどうするか?」という問いに戻ると、要は、ぼく自身が、「主催事業」と「受託事業」をどうしようか、という質問ですよね?。 ━━━━そのとおりです。 川嶋:正直言って、今は、少し自由に動けるようになった部分もあるけれど、気がつけば、キープに週2日、山村再生支援センターに週2日、某社には週に何日ということがそれなりにある。その他にも立教のESD研究センターの仕事や、日本環境教育フォーラムとか様々な仕事もあるわけで(こっちは、お金にならないけど・笑)。ガラガラポンでゼロから何かを始める、ということではないし、別にそういうことをしたくて、今の状況にあるわけじゃないんです。全部つながっているものだから、少しずつ、ハンドルをどっちかに切ってゆくことかな、と思います。で、じゃあ、どっちの方向ですか?って質問ですよね。 うーん、それはなかなか難しくてねぇ。 今までやってきたことも、まったく何もないところから僕が始めたことはなくって、色んな人と話したり、社会の色んな動きがあったり、いろいろ様子を見てたら、こっちのAさんと、あっちのCさんが言ってることって、合わせると一緒じゃないの?っていう風に見えてきて、じゃあ会わせてみよう、なんか一緒にやろうとかって動いてきたことなんですね。 今、この瞬間もスポーツESDという動きが早稲田で始まって、僕らと接点のないところからスタートした動きなんだけど、たまたまESD-J(持続可能な開発のための教育の10年推進会議)を通じて、僕に連絡があって、早稲田のスポーツ産業研究所というところが今、中心にやっています。皆、そこにいる人たちは、ESDなんて初めて聞きました、という人たちばかりなんですね。で、今朝、道を歩きながら思っていたのは、佐藤初雄さんとどこかでくっつけないとといけないな、ということなんですね。それによって、どう展開してゆくか。佐藤さんは日体大の出身で、自然体験活動協議会の代表理事でもあるから…。
まぁ、だから、だーんとでっかい組織を動かしてゆこうっていうよりも、いい例がひとつでも掘り起こせるといいな、っていう感じなんですね。 ━━━━愛知万博のときは、もう少し大きなレベルのお仕事でしたよね? 川嶋:そうですね。あのときは7-8のレベルの仕事でした。でも10の仕事じゃない。
川嶋:先日も、ここ、立教大学でESD市民会議というのをやっていました。産官学民みんなで集まって、2014年のESDの最終会合が日本である。そのために、政府がお金を出す前だとしても、ぼくらでESDをやっていこうという流れがあるんですね。それの夜の懇親会に50人ぐらい集まっていました。 で、気がつくと、ぼくは人と人を紹介して、つないでいるんですね。(笑)。何人かは気がついていて「あっ! 川嶋さん、仕事している〜」なんて言われたりして、「あなたもやってよ!この仕事」って思うんだけど。 この人と、この人は、ちょっと顔だけは知ってたとしても、この人のこの部分と、この人のこの部分って、お互いは知らないだろうなっていう点を、たまたま僕が知ってる場合があるじゃないですか。そこで「この人、こういう部分あるんだよ」って僕が言えば、「えー!」とかいって盛り上がったり、つながったりする。要はそこで動きが起きればいいの。 僕の場合、そういう懇親会で自分がたくさんの知り合いたいという欲よりも、AさんとBさんがつながった!という状況を見ているほうが、喜び度は高いのかもしれないね。 ━━━━これまでに、つなげてよかったなと思った方々は? 川嶋:覚えてませんね〜。この間の50人の懇親会、2時間ぐらいの立食だったけど、それでも20人くらいはつないだからね。つなぐってのは、ぼくの日常になっているから、もう、わかんないよね。 それから、<俺がつないだからな、忘れるなよな〜>とかいって、自分の存在を保とうとする人っているじゃないですか。あれの気がしれなくって(笑)。俺だって、逆の立場だったら、「忘れるな」と言われても、忘れちゃうもん。誰に紹介されたかって、とても覚えてられない。もちろん、名刺の裏とかに誰に紹介されたかを書く努力もするけど、ぜんぜんだめ。書くことさえ忘れちゃう。自分が覚えてられないことを、なんで人に要求するんだよって思うよね。 あと、ぼく、中学校のときは陸上競技部にいたけど、それ以来、運動といえば、高校生のころの学生運動が最後だから。あー、今のところ、笑うところね。 ━━━━了解です(笑)。 川嶋:いわゆる、体育会系に本当に縁がない。先輩、後輩とか、とにかく黙って言うこと聞けとか、後ろをついてこいとか、そういうのは本当に苦手なのね。好きじゃないってのもある。誰かの後ろをペタペタついてくのは嫌いだし、俺の後ろにつかせるのはもっと嫌いだから。よく、ギャグで「弟子はとらない」って言ってます。だれも弟子になりたいって人はいないんだけど…。 ━━━━自分もコントロールされたくないし、人をコントロールしたくもない? 川嶋:コントロールっていうか、なんか、なんか、やだね。だって、みんないい大人じゃん。そんなんさぁ。
━━━━上下の関係が日本社会に根深くあるなかで、フラットな関係を築きたいというメッセージを川嶋さんから感じます。対等性を大切にしているというか。どんな偉い人の前でも媚びないし、どんな若い人にも媚びさせない。
川嶋:本人は別に意識してないんだけど、他の人から見たらそうかもね。 ぼくは腰の低いすぐれた人達にたくさん会ってきている。腰が低いってのは、総称だから、単純にペコペコしているってわけじゃなくてね。若い頃、世に言う高名な方に会いに行ったとしても、ちゃんと対応してくれた。そういう人をみて「あー、俺もこうならないといけないな」という気持ちになった。虐待なんかしちゃう親って、可哀想に小さい頃、虐待されて来た人が多いという話もあるじゃないですか。だから、育てられ方が、育て方をつくるって側面があって。俺は自ら求めて、若いころ色んな人に会いに行って、どういう風にしたら、どういう風に相手が反応してくれるのかっていう練習をずっとしてきたわけです。 だいたい世の中で評価される人ってのは、腰も低いよ。それでも、その人がその人らしく振る舞えるようにするには、ちゃんとした誠意の出し方というのもある。その人を怒らせちゃったら、いくら腰の低い人でもだめじゃん。コミュニケーションはキャッチボールです、なんていう言葉もあるけど、自分が適当な球を投げておいて「あの人の態度はいい加減だ、けしからん」なんて言ってもしょうがない。
■「馬鹿だなぁ」と思ってもらえたら 川嶋:淀川長治っていう映画評論家の「僕は嫌いな人に会ったことがない」っていう名言があるんだけど、結局それは淀川さんの人柄が、みんなのいい面を出させるわけだよ。俺は、ああなりたい。 だってさ、人って、鏡じゃん。相手が何で嫌なヤツなのかっていうと、イコールそれは自分が嫌なヤツってことなんだよね。すごくわかりやすいよね。
━━━━最近、嫌なヤツにあまりあっていない? 川嶋:嫌なヤツなんていないよ。 ━━━━淀川長治さんになりつつある!?(笑) 川嶋:ははは(笑)。まぁ、その人のその時の事情とか、色々あるじゃないですか。ひょっとしたら、ぼくが言ったこと、書いたこと、ちょっとした仕草が、その人をそういう気持ちにさせちゃったかもしれないし。まぁ、そうならないようにしているから、あんまりそうならないんだけど。 ━━━━以前、「川嶋さんの仕事のこだわりは、どのへんにありますか?」と聞いたときに「コミュニケーション」とお答え頂きました。ようは、このへんのことですね? その人の良い面がその人らしく出るように、人と関わる。 川嶋:そうだね。
それを一対一でやるのが、コミュニケーション。一対30だと、ファシリテーションとかって突然言ったりするけど、基本は同じでね。相手が何を感じているかを考えて、対応していく。
━━━━そしてもう一つのこだわりは「笑い」だと。川嶋さんは、「笑い」に何を見ているんですか? 川嶋:まぁ、コミュニケーションの促進剤ですよね。たとえば初めて仕事をする相手の人に、自分の活動を紹介していたとします。「あー、話を聞いてくれてるな」と思っている時、ほどよいタイミングでポッと笑いのネタを入れたりする。すると、その後、スムーズに話せたりする。 ━━━━笑わせたくて笑わせているわけじゃない? 川嶋:うーん、まぁね。大きい意味では笑わせたいんだけどね。相手とスムーズに、豊かにコミュニケーションをするために「笑い」という調味料がある。相手に安心してもらいたいんです。「僕は怒ってないですよ、もっと距離を近づけたいんですよ」というのを伝えたい。 笑ってもらえない時もある。すべっちゃう時ね(笑)。でも、「この人は自分を笑わせたいんだな」という意思表示はしていると思う。相手にしてみれば、「私と、一生懸命コミュニケーションとろうとしてるんだな」というのが伝わると思うんだよね。中には、ただ自分のギャグを認めさせたいという人もいるけどね… あー、でも僕にもそういう面あるなかな、正直に言ってね。ちょっとカッコよくいいすぎちゃったかな。 ━━━━ただ、ウケたい。 川嶋:ただ、ウケたい(笑)。あるある。まぁ、両方あるんだよ あとね、自分を低くするってのは基本ね。相手が高くたって、自分を低くする。相手が低いから自分を低くするんじゃなくて、相手が高かろうが、低かろうが、自分を低くする。 ━━━━なんで低くするんですか? 川嶋:そのほうが、コミュニケーションは楽だから。まぁ、僕は背が低いから、もともと低いんですけど(笑) ━━━━たしかに 川嶋:「馬鹿だなぁ」ってのは、親しみもこもっているしね。 ━━━━なるほど、ありがとうございました。 清里でのワークショップで、川嶋さんの「コミュニケーション」を、じっくり味わいたいと思います。よろしくお願いします。 ※過去のインタビューはこちら
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